第14回「通水節」伊是名島
【ボーナスページ】しーぶん(おまけ)
伊是名島「通水節」収録秘話
「そういう場所ではデジカメはシャッターが下りなくなることもあるから、念のためにフィルムカメラも持って行きますね」
御嶽や聖地、パワースポットと呼ばれるところでは、稀にカメラが動かなくなり撮影ができなくなることがある―。
こんなお話、聞いたことはありませんか?
実際にそうした状況に陥ってみないとピンとは来ない。
というのが正直なところで、噂ともつかないハナシを信じるか信じないかは本人の自由。
幸いカメラのトラブルに遭遇したことがない私はそう思っていました。
2012年5月9日夜8時、星が数えるほどしか見えない雨上がり。場所は伊是名島ふれあい民俗館近くの小さな一軒家の三線練習所。
今回「通水節」を歌って下さるメンバー6名が揃うと、声慣らしに古典の御前風五曲が歌われました。今回は四弦ある胡弓(クーチョー)も入っています。

静かな静かな高台の原っぱに建つ練習所で、すべての準備が整うと何の疑いもなくいつもの通り「通水節」の収録をスタートさせました。
宮廷音楽である古典の「通水節」は、非常にゆったりとした重厚感あふれる歌です。いただいた工工四(三線の楽譜)を眺めながら、息を殺してじっと聴きいているも、子守唄のような歌に、気持ちよくてつい眠くなります。
長い歌が終わり、デジカメの動画ストップボタンを押す。
これで収録完了。
のはずが、画面には見たこともないエラーが表示されています。
「えっ?! 何これ?!」
初めて見るエラーに戸惑いを隠せません。
まさか?!
再生ボタンを押してみると、「通水節」の動画が撮れていませんでした。
昨年から多くの島で収録を重ねてきましたが、動画が記録できない。こんなことは初めてです。
「すみません! こんなことは初めてなのですが、何故かうまく撮れていなくて…。たいへん申し訳ありませんが、もう一度最初からお願いします」
8分もの長い歌なので、本当に申し訳ないと思う気持ちと、アタマは?マークだらけでいっぱいです。
「大丈夫なの? 一度試し撮りしてみたら?」
ご提案を受けて、短めの民謡を少し唄っていただきました。
すると今度はいつも通りちゃんと収録できています。
よかった。カメラが壊れたりおかしくなっているワケじゃないんだ。
「大丈夫でした! ちゃんと撮れています。すみませんがもう一度お願いします」
今度は大丈夫! と再度、収録開始。
よしよし。順調。いつも通り。
と思いきや、開始から1分半ほどして急に画面が変わり、またもやエラー表示!!
ええっー?! いったいどうなってるの?!
慌てて両腕を高くクロスさせ、歌っている皆さんへ×印の中止サインを送りました。
「さっきは撮れたのに。いったいどうなっているの…??」
なぜか“収録できない”、という原因不明の初めての現象に困り果ててしまいました。
うろたえている私へ、島の方々が
「ちゃんと挨拶してきた?」
「御願不足じゃないのかぁ?」
「お通しが通っていないんだよ」
「金丸さまがイタズラしているんだよ」
決して怖い顔をしている訳でもなく、私を責めるワケでもなく、当たり前のことのように“お祈りが足りないのだろう”などと思うがままに話しています。
「伊是名玉御殿、みほそ所、阿母加那志のトートーメー…、金丸さま縁の場所はすべて東江さんに連れて行って頂きました。
取材のときは一応、私なりに島の神様たちにご挨拶しているのですけれど…」
と答えると、
「じゃあ御願不足だわ」
と切り返されました。
「うーん。そうですかねぇ…」
別の方が問います。
「通水にも行った?」
「はい。行きました。でもそこでは特に手を合わせませんでした。それがいけなかったのでしょうか?」
「通水は何人で行ったの?」
「東江さんと私のふたりです」
「それがダメなんじゃないの? 歌にある通り三人で来なさいって金丸さまがイタズラしてるのかも」
そう言うと、一同笑いに包まれ、腑に落ちたような雰囲気が漂いました。
他の民謡は収録できたのに「通水節」となると何故か収録できない。原因はわからない。いったいどうしたものか…。
それでもチャレンジするしかありません。
「長い歌なのに、本当に申し訳ありませんが、もう一度最初からお願いします」
再び収録開始。
静かな夜の練習所に三線と胡弓が響き渡りました。
正直、収録できるかまったく自信はなく、いつまたエラーになるのか、ハラハラしながらの緊張の長い時間。
“やっぱり御願不足なんだろうか…。
金丸様、島の神様、どうか「通水節」を撮らせて下さい。
日本の人々へ、世界中の人々へ島唄を、「通水節」を届けさせて下さい!!”
心のなかでひたすらお祈りしていました。
テン ツツ テン
三線と胡弓の音が止みました。
ドキドキしながらカメラのストップボタンを慎重に押しました。
演奏して下さったみなさんの視線が集まります。
見慣れた画面があらわれました。
うん。今度は大丈夫そうな雰囲気。
念のため再生してみる。
テン テテ テン テン
よかった!! 今度は成功! 無事、「通水節」が収録できていました。
「ちゃんと撮れてます! ありがとうございました!!」
思わず声が大きくなりました。

「あぁ、よかった!」
「一晩中かかるかと思ったよ」
「私達に練習させていたのかも。もっと心を込めてやりなさいって」
練習場に笑顔と安堵の声が広がりました。
撮れた動画を満足気に見入る方たちの姿に、私はただただほっと胸をなでおろしました。
まったくの偶然が重なっただけかもしれませんが、三度目の正直で撮れた「通水節」。
不思議な現象にはいったいどんなメッセージがあったのでしょうか。

梅雨の雨が上がった翌日、伊是名島を離れる前に、大変お世話になった東江清和さんにご挨拶をしようと職場へ伺いました。
「ちょうどいい。紹介しておきます。昨夜一緒に演奏した伊禮くんのお母さん。舞踊の先生ですよ」
と紹介して下さったのが伊禮照美さん。
やさしい笑顔の照美さんに、私にとっては初めての体験であった昨夜の収録時の顛末を思わずお話しました。
すると、一瞬ですべてを理解したような瞳で、
「以前、公事清明祭のときにもそんなことがありましたよ」
と珍しくもなんともない、と言った様子でおっしゃいます。
以前、公事清明祭の際に、念入りに準備しておいた新しい舞踊のテープがうまく再生されず、立て続けに4回も失敗したそう。結局、その舞踊は2年越しで奉納できたそうです。
清明祭は18世紀頃、中国から伝わったとされる旧暦三月、清明の節に行わる祖先供養の行事です。
公事清明祭とは、尚円王の親族が葬り祀られている伊是名玉御殿で行われる清明祭のことで1870年来の歴史をもちます。公事清明祭が終わらなければ島の一般の清明祭は行えないとされるほど、公事清明祭は重要な行事のひとつです。
「あのとき、踊りの◯◯先生は4回失敗しているから、四隅を清めなさいという意味ではないかと仰っていましたよ」
と清和さんを交え、当時を振り返ってお話ししています。
おふたりのやり取りと昨夜の収録時の島の人たちの様子を思い返しながら、ある共通点に気付きました。
単なる機械の故障なのか、説明のつかない不思議な現象が起きても、島の人たちはまったく動じていなかった。
ある種、神がかり的なこととも解釈できそうな現象をも、良識ある善良な大人たちが、当然のように、あるがままに受け入れている。
もし、同じことが東京や名古屋や大阪といった大都会で起ったら、「御願不足」だとかこんなハナシが果たして通じるのだろうか。想像してしまう。
猛烈な台風の時は、学校も役所も仕事もお休みとなる沖繩。台風に、自然に逆らわない。決して無理はしない暮らしについても同様のことが言える。
それは、科学や文明が発達する以前の、ずっとずーっとむかしの人々の暮らしと重なる。
未解明であった自然もひっくるめて、目に見えない人智を超えたものに逆らわない、否定しない暮らし。
感謝の気持ちと謙虚さと畏怖の念をもって、自分たちに起こること全てをあるがままに受け入れる。
自然も、超常現象も、神様も、すべてが人々の暮らしと共にある。
なんくるない
本来の人間らしい生き方ができる南の島。
それが伊是名島。
それが沖繩。
それが琉球。
だから心地よくて、魅力的なんだ。
あぁ、これを教えたかったんだ。
乾いた大地が清浄な水を飲み干すように、あらためて沖繩の魅力がぎゅうっと身体中に染み込んできたのでした。

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