神が人に戻る瞬間
船元の御座からスリズへ戻って来たのは午後4時半近く。
午前11時25分頃に行われた“人から神になる”ミリク誕生の儀式。このときは多くの観光客の方々も見守っていましたが、船の関係でしょうか、スリズで島人とともにミリク様を見つめる観光客の方はずいぶんと少なくなっていました。
静まり返ったスリズで島人たちが見守るなか、いよいよ“神が人に戻る”瞬間です。
約5時間もの間、飲まず食わず、用も足せず、神様として振る舞ってこられた。
ミリク面を外した瞬間、人はいったいどんな表情なのだろう。
会場が一体となり、それこそ“固唾を呑んで”すべての方が舞台上のミリク様を見つめています。これほど“固唾を呑んで”という表現がピッタリとくる瞬間はそうそう出逢えるものではないでしょう。
ミリク誕生の儀式と同様、世話役の金星さんがミリク様の背後にまわりました。
真っ白な笑みをたたえたミリク面に、明るい黄布が頭からかぶせられ、ゴソゴソとすること数十秒。
陽に焼けた浅黒い人の顔が現れました。
その人の表情は、大役をやり切ったという満ち足りた最高の笑み。その笑顔は格別に清々しく、神々しくもあり、思わず手を合わせたくなるようなオーラをまとっていました。

スリズのなかには、かすかにすすり泣く声が聞こえます。
周囲を見渡すと涙を拭う女性たちの姿がありました。
今日は一日陽差しも強く、とても暑かった。私は何度も何度も水を口にした。一日ずうっとみてきたから、ミリク役のその大変さは傍目からも推し量ることができる。
ひとりの人間が一日神になり、やり切って、ふたたび人間に戻って来た。
スリズには得も言われぬ感動が広がり、人々が一体となっていました。その一体感は圧倒されるほど強烈なもの。
この神行事はシマ(集落)の人々が参加することによって、ミルク神を通じて、陳腐な言い方かもしれないけれど、“強烈な郷土愛”を呼びかけ、島人を固い絆で結びつける。何か特別な働きがあるように思える。
こんなすごい神行事があって羨ましい。参加できて、これだけ感動できて・・・。
気付けば、掲げていたカメラをおろし、私の頬も感動の涙で濡れていました。
島風の記憶と希望 