二日目。ユークイ(元旦)
人が神になる瞬間
爽やかな青空のもと、祖納のスリズ(公民館)で午前11時から儀式が始まりました。
ユークイは、メイン行事となるフニクイ(船漕ぎ)が行える庚子の日のミチスー(満潮時刻)を逆算してはじまります。自然の流れに開始時間を合わせるあたりは、古式神行事を受け継いでいる証のひとつ。潮に合わせる開始時間は毎年変わり、今年は11時が開始時刻となりました。
スリズの舞台背景には、祖納のシンボル「マルマボンサン」をはじめとした島々と青い海、船元の御座から眺められる風景が描かれています。
舞台上手から黄衣姿の西表全剛さんが緊張した面持ちで現れました。
ミリク世話役の石垣金星さんに導かれるようにして、全剛さんは中央の椅子に腰掛けます。原則としてミリク様に近付いたりお話ができるのは世話役の方だけ。ミリク様の面をつけるのも外すのも世話役の役目です。
衣装をつけた島人たち、観光客の方々、静まり返ったスリズには緊迫した雰囲気が漂っています。
いったいどんなふうに神様になるのだろう。
はじめて目にする瞬間に心臓の鼓動が早まります。
中央の椅子に座っている全剛さんの後ろに金星さんが回りこみました。
フクギで染めたのでしょうか、艶やかな黄布を頭からすっぽりとかぶせ、全剛さんの顔がすっかりと隠れてしまった。
数十秒後。
黄布が取れると、にっこりと笑みを湛えた白いミリク様のお顔がありました。
西表島の祖内に神様が誕生した瞬間です。

「おぉー」という観客のため息とどよめきが入り混じり、厳粛な空気から一変、和やかなおめでたい空気へと変わりました。
ダイグクヌ ミリク バガシマニ イモリ
ミリク様が立ち上がると同時に三線が鳴り「弥勒節」が始まりました。旗頭を先頭に一行が船元の御座へと集落内を歌い練り歩きはじめる合図でした。
島風の記憶と希望 