久米島の君南風『六月ウマチー』【前編】

沖縄[久米島]の伝統祭祀・伝統行事の記憶(記録)
2025年7月19日(令和7年 旧暦6月25日)取材 @ 沖縄県島尻郡久米島町

久米島の君南風「六月ウマチー」概要(令和7年)

「六月ウマチー」は稲穂の豊作を感謝する農耕儀礼祭祀のひとつです。
沖縄県の久米島(くめじま)では旧暦6月25日に斎行され、久米島の最高位神女である君南風(ちんべー)最大の祭祀と言われています。

殿(トゥン)は祭祀場のことで、各殿(祭地)を廻り祭祀を斎行することを「殿廻り」と言います。
沖縄諸島の稲麦四祭(ウマチー)の「午前の殿廻り」を「朝神」、「午後の殿廻り」を「夕神」と称します。

令和7(2025)年は午前9時から朝神、午後5時から夕神の最たる神事「グシクヌブイ」が斎行されました。

【前編】朝神
天候(午前9時):晴れ/気温30.1℃、湿度83%、東南東の風7.8m/s
斎行時間:午前9時頃~午前9時45分頃
祭地:君南風殿内 → 仲地蔵下 → 玉那覇蔵下

【後編】夕神 「グシクヌブイ」
天候(午後5時):晴れ/気温30.3℃、湿度80%、東南東の風9.38m/s
斎行時間:午後5時頃~5時45分    
祭地:具志川城址 

はじめに

いつからか、10年以上は経っていると思います。
沖縄の離島・久米島の「君南風」に興味を抱きました。
きっかけは、偶然目にした一枚の写真でした。

【出典】『沖縄大百科事典』沖縄タイムス社(1983年5月30日初版発行)

沖縄の神事では、神女が植物で作った祭祀用の冠(ハブイ、カブイ)をかぶっている光景がよくみられます。
ハブイの材料となる植物は地域によって異なり、同じ祭祀のなかでも神役によってハブイの植物は異なります。
祭祀で神女が冠するハブイの植物、形状はさまざまなのです。

これまでさまざまな祭祀を取材・拝見させていただく機会に恵まれました。
ですが、君南風のように植物でお顔が見えないほどのハブイを冠した神女は見たことがありません。
君南風の神秘的なお姿が長らく気に掛かりつつ惹かれていました。

久米島の最高位の神女「君南風」とは

これだけは知っておきたい。 久米島「君南風」5つのポイント

1.君南風は久米島の最高位の神女です。
  発音は「ちんべー」「きみはゑ」など。
  久米島では「トートー」とも呼ばれています。

2.君南風は琉球の高級神女の総称「三十三君」の一神です。

3.1500年「オヤケアカハチの乱」で首里王府軍を勝利へ導いた功績で知られます。

4.君南風は三姉妹の三女だったという伝承があります。
  長女は首里弁ヶ嶽に、次女は八重山で暮らし、三女が久米島に住み君南風になったと言われています。

5.三十三君のうち、現在も役職や祭祀を受け継いでいるのは君南風だけとされています。

良き出会い良いご縁、ものごとには時節がある。
そう思い、時節を待つこと、10年あまり。
ようやく、憧れていた君南風を拝見できる時節が巡ってきました。

沖縄の農耕儀礼に関する伝統行事「ウマチー」

ウマチーとは「おまつり」のことで、沖縄の農耕儀礼に関わる伝統な祭祀行事です。
旧暦2月・3月は麦、旧暦5月・6月は稲穂、それぞれの豊作祈願と感謝のウマチーが年に4回斎行されます。

「五月ウマチー」で稲穂の豊作を祈願し、「六月ウマチー」で稲穂の豊作を感謝します。
沖縄本島界隈では、旧暦6月15日に六月ウマチーを行うことが慣例となっています。

君南風の最大祭祀「六月ウマチー」は旧暦6月25日

久米島の最高位神女である君南風が主宰する代表的な祭祀は、五月ウマチー(ツマ、シツマ)、六月ウマチー、雨乞いとされています。
なかでも「六月ウマチー」は君南風が携わる最大の祭祀と言われています。

沖縄本島界隈では、旧暦6月25日は「六月カシチー」と言って、新米でカシチー(強飯)を炊いて祖先とヒヌカンに供え、収穫の報告感謝を捧げる行事が各家庭で行われます。

久米島では旧暦6月25日(カシチー)に「六月ウマチー」が斎行されています。

六月ウマチーを拝見するには前日から久米島入りを

令和7年の旧暦6月25日は、7月19日(土)。
君南風による「六月ウマチー」は朝から斎行されるとのことで、前日から久米島入りする必要があります。

那覇から久米島へは空旅か船旅のいずれか。
今回は往復とも空旅をセレクト。前日(2025年7月18日)の最終便で久米島へ渡り、翌日の最終便で那覇に戻るという1泊2日のショートトリップにしました。

那覇は不安定な天候が続き、夕方に那覇を飛び立つときは小雨でした。
歩いて搭乗する那覇空港はなかなかの風。帽子を飛ばされている方の姿もありました。
久米島まで30分の短いフライト中、機体は揺れをともないながら飛び、風が強いように感じました。

久米島兼城十五夜」から2年振りの久米島空港に降り立つと、路面はしっとり濡れていました。雨は上がっていました。

最終便で久米島に到着。宿に荷物を置くと、さっそく居酒屋さんへ。久米島近海で捕れたイマイユ(鮮魚)と島酒に舌鼓。翌朝が早いため、もう少し飲みたかったけれど早めに就寝しました。

令和7年の「六月ウマチー」当日。晴れ。
まばゆい朝の光が久米島と東の海を照らしています。
やはり、神事はお天気に恵まれるのです。

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